高レベル放射性廃棄物の地層処分場について、国は2016年末までに、科学的根拠に基づき、より適性が高いと考えられる「科学的有望地」のマップを示すとしていた。しかし、その発表は遅れ、結局発表されたのは「科学的特性マップ」と名を変えた責任回避マップだった。

 

経済産業省は7月28日、「科学的特性マップ」を公表した。これは、原発の使用済み燃料から出る高レベル放射性廃棄物の地層処分を行う場所を選ぶ際に、どのような科学的特性を考慮する必要があるのか、それらは日本全国にどのように分布しているか、といったことを分かりやすく示すものと、経済産業省は説明している。

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「科学的有望地」が「科学的特性」に変わった経緯

そもそも、トイレなきマンションと揶揄される原発にとって、地層処分場の選定は長年の課題である。しかし、過酷事象の責任を誰も取ることが不可能な原発行政の中でも、放射能がウラン鉱石レベルまで下がるのに10万年以上かかるとされる地層処分場の選定は、無責任な先延ばしが続いてきた。これまでの人類史にも匹敵する長い年月の地質的な安定性が要求される地層処分地の選定を、政府はつい最近まで、地方自治体に対する公募によって決定しようとしていた。

2007年に高知県東洋町の応募があったが、高知県知事や地元の反対によって町長がリコールされてしまった。以来、どこの自治体からも応募はない。

2011年春に政府が全国の複数の地域へ申し入れる動きがあると報じられた。しかし、その直前に福島第一原発事故があり、申し入れの話は途切れた。

そして、2013年12月に政府(最終処分関係閣僚会議)は、「国が科学的根拠に基づき、より適性が高いと考えられる地域(科学的有望地)を提示する。その上で、国が前面に立って重点的な理解活動を行った上で、複数地域に対して申し入れを実施する」ことを決定し、2015年4月には最終処分法に基づく基本方針の改定(閣議決定)が行われた。科学的な観点から抽出した要件、基準に従い、より適正が高い「科学的有望地」を示すマップは2016年中に公表すると、最終処分関係閣僚会議は2015年12月に決定していた。

しかし、いよいよ科学的有望地のマップ発表へという土壇場に来て、発表は延期になった。有望地や適性という言葉が処分地の決定につながるイメージが強く、誤解につながるというパブコメ等で寄せられた意見を受けて見直すとの理由だった。裏事情としては、解散総選挙が検討されており、当時、鹿児島県と新潟県で原発が争点となり、自民党が2連敗したことが影響したとも言われている。

そして、今回発表されたものは、「科学的有望地」が「地域の科学的特性」となり、地図は「科学的特性マップ」と呼ぶことになった。またも、政府や科学者たちは、取るべき責任を回避した。

地図の縮尺も200万分の1であり、非常に大雑把。地上施設が1~2k㎡、地下施設が6~10 k㎡の広さと言われる地層処分場の地点を特定するにはほとんど役に立たない。これくらいなら、中高生の地理や地学の教科書か副教材の火山、活断層、鉱物資源のマップを重ね合わせれば、わかるだろうという気がしてしまう。

好ましくない要件・基準、好ましい要件・基準と地域の特性区分は下記の図表に示すとおりで、結局のところ輸送面でも好ましい沿岸から20㎞程度のグリーンの沿岸部が実質的な「科学的有望地」とも読めそうである。

多額の調査研究費と長い時間を使って出て来たマップがこれかと思うとがっかりするが、責任を取りたくない政府や科学者の提示できることがここまでだとしたら、あとは市民の良識と想像力を働かせて考えていくしかない。

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高レベル放射性廃棄物による現世代に迫る危機

最終処分法に基づく基本方針の改定では、「廃棄物を発生させてきた現世代の責任として将来世代に負担を先送りしないよう、地層処分に向けた対策を確実に進める」とあるが、そんな世代間倫理のような高尚な理由ではなく、我々現世代に差し迫っている危険の回避策として、高レベル放射性廃棄物の適切な保管と処分を早急に考える必要がある。

原子炉が停止していても電発は安全ではない。いま最も危険なのは各原発の使用済み燃料プールである。このプールの水が失われれば、フクシマを超える破局的な被害が発生する。

もし、福島第一原発の4号機で大量の燃料集合体を貯蔵していた燃料プールの冷却機能が失われていたら首都圏も壊滅していたと言われている。しかも、使用済み燃料プールには原子炉と違って、圧力容器も格納容器もない、多くの原発では地震に対して脆弱な建屋上部に位置している。危険この上ない。大地震やミサイル攻撃などを想定し、危機回避を真摯に考えるならば、いますぐに一定の冷却が済んだものは、キャスクによる乾式貯蔵に切り替え、地震の影響の少ない地下保管をすべきである。

また、使用済み燃料を再処理してガラス固化体にするという政府が想定している高レベル放射性廃棄物の再処理技術自体がいまだ確立していない。再処理工程での放射能汚染はすさまじいものがある。核開発につながるプルトニウムをこれ以上増やさないためにも、早急に使用済み燃料の直接処分スキームによる法整備、技術開発を進めるべきである。

反原発派のなかには、再稼働につながる地層処分場の選定や建設を拒否するという意見もあるが、拒否すべきは、再稼働や原発の継続を優先しながら放射性廃棄物の処理処分を遅らせる政府や電力事業者らの姿勢である。真の脱原発のためには、すでにある使用済み核燃料の安全な保管と処分をしっかり考える必要がある。

市民の良識と想像力で地層処分適地を考える

さて、市民の良識と想像力を働かせて地層処分場の適地を考えるとすれば、答えは意外にシンプルである。つまり、輸送距離を短くし、新たな放射能汚染地域を増やさないという観点から、使用済み燃料や高レベル放射性廃棄物が大量にある地域、発生する地域で処分するのが合理的である。それは、現在、多数の原発関連施設が集中立地している地域であり、候補はいくつかに絞られる。現在、原発関連施設が立地しているということは、すでに火山や活断層など一定の地層処分場として好ましくない要件・基準を避け、輸送など好ましい要件・基準を満たしているはずである。住民の原子力産業に対する親和性も他地域より高いと考えられる。

まず、原発の集中立地という意味では、福島第一、第二の周辺地域と柏崎刈羽地域がまず挙げられる。福島第一、第二の周辺については、今後の廃炉処理との連動性や放射能汚染地域の活用、フクシマの災禍を後世に引き継ぐモニュメント機能としても有力である。柏崎刈羽は日本最大規模の原発集中地域である。関西の大飯、高浜などの原発を擁する福井エリアも有力候補である。さらに、再処理や使用済み燃料の貯蔵施設との距離を考えれば青森県の六ヶ所村周辺を候補に挙げないわけにはいかない。

電事連の2016年9月末時点のデータでは、各原発の使用済み燃料の貯蔵量は、福島第一、第二合わせて3,250トンU、柏崎刈羽2,370トンU、大飯と高浜合わせて2,640トンUである。また、六ヶ所再処理施設の10月28日までの使用済み燃料受け入れ量は3,393トンUとなっている(日本原燃HPより)。

原発の集中立地という意味では静岡県の浜岡原発周辺(使用済み燃料貯蔵量は1,130トンU)もあげられるが、東海・南海トラフ地震が想定される地域であり、市民的な良識や想像力に照らして避けたいところだ。

では、これらの地層処分適地としての候補地域は今回発表された「科学的特性マップ」では、どう色分けされているのか。縮尺が小さすぎるし、現在の原子力関連施設の位置も示されていないので、確認が難しい。現状のどの原発、再処理施設のある地域も「グリーン沿岸部」を示す緑色に塗られているようにも見えるし、柏崎刈羽や浜岡は、鉱業資源について好ましくない特性があると推定される地域とされているようにも見える。そういう意味でもこの「科学的特性マップ」はあまり役に立たない。

いずれにせよ、市民的な良識や想像力を働かせれば、福島第一・第二周辺地域、柏崎刈羽地域、福井エリア、六ヶ所村周辺は、いままでの原発関連施設の立地に伴う調査資料を活用しながら、優先的に地層処分場選定のための文献調査や概要調査などを進めるべき合理性があると思われる。

さらに、この4つの地域を適地として優先的に調査する理由はまだある。これらの地域はいずれも長い間、原発や再処理施設など関連施設の立地してきた歴史があることにより、原発や関連連施設に関する議論の熟度が高いということである。推進派、反対派、行政、事業者、メディアそれぞれにこれまでの議論と知識の蓄積があり、どのステークホルダーにとっても、議論を尽くしやすく、全国の国民への議論の公開もしやすい。したがって、全国的な冷静かつ公平で高い水準の科学的知見の投入もしやすいということである。

高レベル放射性廃棄物や使用済み核燃料の問題は全国民の問題であり、これまでの国や科学者の長い検討と議論の中でも明確な科学的有望地が示されなかった以上、偏狭な地方への政治的押しつけで解決すべきではない。一定の原発関連施設の立地・運転の実績、あるいは事故の経験を含めた議論の蓄積のあるところで、科学的な調査研究の結果を基に国民的議論を尽くして決めていくべきである。

脱原発・脱温暖化・脱国際紛争のためのエネルギー政策転換

ついでに、原発再稼働の条件を市民的良識と想像力で考えると、少なくとも廃棄物の処分と事故時の賠償の準備は不可欠である。第一に、廃棄物を適切に処理処分できない状態での操業は許されないことから、高レベル放射性廃棄物の処分地選定はもちろん、使用済み核燃料やその他の放射性廃棄物の処理処分方法が確立することが必要である。第二に、現実に起こった福島第一原発事故の被害を想定し、それを賠償するに十分な金額(賠償・除染・廃炉等20兆円超)の保険や積立金を税金投入なしに事業者が準備することが必要である。

将来世代に放射性廃棄物による被害の危険を増やし続ける再稼働は許されるはずがない。想定される事故に対する保険なしに原発の運転を続けることは、自賠責保険なしに自動車を運転するようなものである。要するに現状の原発の再稼働や推進は人類史的な犯罪に近い。

いま、政府のエネルギー基本計画の見直しが進んでいる。市民的な良識と想像力から考えると、あれこれ迷うことはなく、地球温暖化を加速する石炭火力の増設やリスクが大きすぎる原発の再稼働は避けて、思い切って再生可能エネルギーへのシフトに舵を切るべきだ。

フクシマの経験を経て、すでに原発がなくても日本の電力需要はまかなえることが実証されている。2050年には再生可能エネルギーだけで日本の電力需要はもちろん、熱や燃料などを含めたすべてのエネルギー需要がまかなえるという試算も出ている。再生可能エネルギーによる100%自給が可能になれば、二酸化炭素排出実質ゼロ、2℃未満のパリ協定の目標も達成でき、いまの化石燃料の輸入費用20兆円超が浮く。世界のエネルギー資源争奪戦争に加担する必要もなくなる。

石炭火力や原発に固執すればするほど、日本の再生可能エネルギー技術の進化の機会は失われ、世界から遅れをとることになる。

脱原発・脱温暖化・脱国際紛争のためのエネルギー政策への転換に躊躇は必要ない。

 

【参考文献】
経済産業省資源エネルギー庁 科学的特性マップ公表用サイト
http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/kagakutekitokuseimap/index.html

どうする「原発のごみ」2017年7月3日発行:原子力資料情報室、原水爆禁止日本国民会議、反原発運動全国連絡会
http://www.cnic.jp/7569

地層処分ポータル
http://chisoushobun.jp/

使用済燃料貯蔵対策への対応状況について 2016 年10 月20 日 電気事業連合会
https://www.fepc.or.jp/about_us/pr/oshirase/__icsFiles/afieldfile/2016/10/20/press_20161020_1.pdf

六ヶ所再処理工場のこれまでの使用済み燃料の受入数量 2016年10月28日更新 日本原燃
http://www.jnfl.co.jp/ja/business/about/cycle/transport/2016.html

脱炭素社会に向けた長期シナリオ(2017年2月発表)
http://www.wwf.or.jp/activities/climate/cat1277/wwf_re100/#energyscenario2017

 

(記事: 久米谷 弘光)