帝京大学教授・首都大学東京名誉教授の三上 岳彦氏の講演を聴く機会がありました。東京のヒートアイランドについてのお話でした。なんと東京は100年で、平均気温が3.02℃も上昇しているそうです。
 このヒートアイランド現象は「都市」に特有の現象で、建物や自動車、人間の生活で消費されるエネルギーが人工排熱となり大気の温度を上げます。とりわけ、暑い夏は冷房がフル活動。その排熱が大きく影響します。真夏の炎天下、コンクリートのアスファルトを歩くと、頭がクラクラするほど暑くてツライですね。コンクリートの表面は50℃にもなり、その放射熱が大気をさらに加熱します。

 こんな困ったヒートアイランドですが、自然のクーラーが大きな解決策となるそうです。それは、海から吹いてくる風の力です。
 東京の上空50メートルぐらいでは南からの、つまり海から内陸へ向かって強い風の流れがあり、東京湾から吹き込む冷たい海風が都心を冷やしてくれます。
 私は東京湾の「海の森」植樹祭に何度も参加していますが、「緑と風の回路」をつくるというのはヒートアイランド対策としても効果を発揮します。「海の森」のコンセプトのひとつは、東京湾にある「海の森」を起点として、日比谷公園、皇居、神宮の森へと続く「風の道」をつくることです。ヒートアップした都心をクールに冷ます対策として、風通しを良くする都市計画こそ、大切です。
 海風が、高層ビルに当たってしまうと風の道は遮られてしまいます。風通しが悪いと暑いというのは、部屋の中と同じです。都市全体の風通しを考えると、「風の道」はある程度の広さのオープンスペース、たとえば公園、神社の鎮守の森が繋がって、高層ビルに遮断されることがない流れが大事です。明治神宮や代々木公園などある程度の広さがある緑地は、市街地に比べ明らかに温度が低いのです。緑に冷やされた涼しい風が通り抜けます。

 ところが、2020年のオリンピックのために、神宮外苑に「風の道」を阻む巨大な建物の建設が予定されています。新国立競技場です。
 高さは現競技場の約2倍、マンションの20階以上に相当する70mあり、敷地面積は1.5倍の11万3,000㎡。現国立競技場・都立明治公園(霞岳広場、四季の庭)・現日本青年館及びその間の道路(新宿区道)が新国立競技場の敷地範囲となっています。延床面積は現競技場の5.6倍の29万平方メートルの巨大な建物です。風の流れが遮られるだけではなく、熱の固まりのような建物になります。
 これだけの表面積があれば太陽光パネル等でエネルギー自給も可能かと思われますが、そうした環境・エネルギーへの配慮も見当たりません。流線型のデザインを尊重すると、屋根(開閉式遮音装置)には構造上耐久性や防火性に問題のあるポリ塩化ビニールではないかとも言われており、環境上も、防災上も最悪のパターンです。

国立競技場
「神宮の森から新国立競技場を考える」緊急シンポジウム 2014/06/15 での外苑ウォーキング。現在の国立競技場の入口周辺の並木道、計画ではこの辺り一面はコンクリートの壁になる

 現在の敷地計画では風致地区にも関わらず、100年の歴史を持つ樹木が伐採されてしまいます。これは景観だけの問題ではありません。風の道が断たれ、ヒートアイランドを確実に助長します。
 なぜ、先人たちが首都の中心に鎮守の森をつくりあげたのか、それにはいろいろな歴史的文化的意味があったはずです。そうした意味をヒートアイランド防止という環境的意義を含めて東京五輪で訪れる人々には「おもてなし」の心とともに伝えたいところです。

 2020年東京オリンピックは真夏の開催です。スポーツ競技にヒートアップするだけでなく、日本、東京のクールな環境配慮のおもてなしを提供することも重要です。新国立競技場の設計に携わる関係者には、ぜひ前向きな見直しを期待いたします。
(S. Ikushima)