そろそろ「HEMS(ヘムス)」を知っておこう

2016年に電力小売自由化

家庭向けを含めた電力小売を2016年に完全自由化する改正電気事業法が成立した。これによって、家庭でも契約する電力会社を自由に選べるようになる。原発の電力が嫌だとなれば、太陽光など再生可能エネルギーで発電している新電力と契約することができる。それがソフトバンクやNTTなど通信会社系の新電力であれば、通信とのセット割引でいままでより料金が安くなるかも知れない。ガス会社であればガスとのセット割引も考えられる。また、自由化によって料金体系も多様化し、ピーク時の電力需要を抑制するため曜日や時間帯によって料金が細かく変動するようになるかも知れない。こうした、電気料金の変化に対応して省エネルギー、電気代等の節約に効果を発揮するのが「HEMS(ヘムス)」である。
「HEMS(ヘムス)」は、家庭用のエネルギー管理システム(Home Energy Management System)。エネルギー管理システム(EMS)は電力、ガスなどエネルギー使用量を「見える化」し、省エネルギーのための機器制御、太陽光発電や蓄電池の制御などを行うシステムである。 管理対象により住宅向けはHEMS(ヘムス)、ビル向けなら、BEMS(ベムス: Building Energy Management System)となる。
と、抽象的にわかったつもりでも、HEMSが具体的にどのような機器で構成されていて、どのように制御して、どのくらいの効果があるのか。導入にはいくらくらいかかるのかなど、よくわからないことが多い。そこで、HEMSのシェアトップメーカー、パナソニックエコソリューションズ社の井上真人さんにお話をうかがった。

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パナソニック株式会社 エコソリューションズ社 エナジーシステム事業部
新事業推進センター エネマネ推進グループ 企画開発 参事 井上真人氏

 

HEMSの普及率はまだ0.2%

―HEMSのシェアではパナソニックがトップとのことですが、いまどのくらい普及しているのでしょうか。
井上氏 経済産業省の資料によりますと、昨年の11月時点でのHEMSの導入数は約7万世帯で、普及率はまだ0.2%くらいです。その時点でパナソニックのスマートHEMSの中心機器である「AiSEG(アイセグ)」は約4万世帯で使われていますので、過半数を超えており、シェアは№1ということになります。また政府は、2030年までに全ての家庭にスマートメーター(通信機能付き新型電力メーター)を普及させ、HEMSを標準的に導入させるという目標を掲げています。

 

HEMS対応の住宅分電盤「スマートコスモ」を発売

―先日の新聞でHEMS対応の住宅分電盤「スマートコスモ」の広告を見ました。そもそもHEMSというのは、どのような機器で構成されるものなのですか。
井上氏 最もシンプルなかたちとしては、住宅分電盤に計測ユニットをつなぎ、計測した電力使用量データをAiSEG(アイセグ)に送りモニターで「見える化」するのがスマートHEMSの基本構成です。今年5月に発売した「スマートコスモ」は、住宅分電盤に計測ユニットを組み込んだもので、ガス・水道の使用量、太陽光発電や蓄電池の状態を計測する機能も付加することができます。いままでだと、計測ユニットを住宅分電盤の横に付けていたのを、一体型で省スペースを実現し、配線施工も大幅に楽になりました。また、最大49回路の計測が可能ですので、いろいろな機器を個別に管理することができます。

スマートコスモ外観

スマートコスモ中

HEMS対応の住宅分電盤「スマートコスモ」

 「スマートコスモ」参考URL
http://www2.panasonic.biz/es/densetsu/aiseg/smartcosmo/index.html

―「見える化」というのは、どのようなかたちで見えるようになるのでしょうか。
井上氏 パナソニックの「スマートHEMS」のひとつの特長はモニターの種類が豊富ということです。HEMS専用のモニターのほか、インターホンやセキュリティ情報受信機と一体になった「住まいるサポE型」があります。また、テレビやパソコン、タブレット、スマートフォンでも専用モニターと同様に「見える化」が可能です。
使用電力や太陽光発電の発電状況、省エネの達成状況などを、キャラクターのペンギンが登場して教えてくれます。たとえば今月の省エネ目標達成状況が15%以上オーバーだったら小さな氷に1匹だけしかペンギン乗れず、15%以上マイナスで目標達成したら5匹のペンギンが大きな氷の上でニコニコという感じです。

ペンギンが登場して今月の省エネ目標達成状況を教えてくれる

ペンギン

部屋ごと機器ごとの使用電力量を表示したり、日、月、年単位で過去データをグラフで比較表示したり、CO2排出量や料金への換算もできます。また、使用電力量の予測や、屋内、屋外の温度、湿度も確認できます。

「スマートコスモ」を利用した「スマートHEMS」のシステム概要図

ヘムス概略図

 

「見える化」から「自動制御」へ

―いまは「見える化」が主だと思いますが、将来はどのような制御管理ができるようになるのでしょうか。
井上氏 いまでもパナソニックの「スマートHEMS」対応のエアコンであれば、外出先からスマートフォンでエアコンのオン・オフができます。また、エアコン運転開始から30分後に節電運転に切り替えるというようなことはできます。
東京電力は2020年度末までに管内の全世帯にスマートメーター(通信機能付き新型電力メーター)を設置する予定で、2020年代の前半までには全国的にスマートメーターが普及するとされています。例えば、スマートメーターが設置され時間帯別料金メニューが導入された時、HEMSがあれば、電気料金が安い時間帯を選んで洗濯乾燥機を自動運転や蓄電池に蓄えた電力を利用(放電)するといった効果的な節電ができるようになります。さらに、電力がひっ迫したときには、家庭のエアコン運転を自動的に抑えて、エリア大規模停電を防ぐというような事も出来るようになります。つまり、ピークカットやピークシフトに協力でき、節電が今までより楽にできる。その分、光熱費も減ってうれしいというわけです。

―なるほど、HEMSとスマートメーターがつながると光熱費を上手に減らすことができるようになるのですね。そのほかにつながる機器はありませんか?
井上氏 スマートHEMSはエアコンやエコキュートや照明(2014年冬発売予定)などとつながります。たとえば、家中の照明をまとめて操作したり、あらかじめ設定した使用電力量を超えそうになると、自動的に照明の明るさを抑えるといったことができるようになります。つなぐための通信方式は家電、電気設備が相互にデータ通信するための通信規格「ECHONET Lite(エコーネットライト)」です。各メーカー間での通信ができるよう通信インターフェイスの標準化の規格検討がされており、将来HEMSと家電、電気設備が相互につながると本格粋な自動制御ができるようになります。
さらに、将来クラウドサーバーとつながると、電気機器の計測データを活用してご家族の安否確認をしたり、エアコン、換気扇のフィルター交換の時期、機器の電池切れや修理の必要をモニタリングして知らせるといったこともできるようになります。

 

「見える化」だけでも1割程度の省エネ効果

―省エネの効果はどのくらいあるのでしょうか。意地悪に考えれば、HEMSだって家電の待機電力分くらいの電力を消費すると思います。
井上氏 省エネルギーセンターの調査によると、HEMSの「見える化」の効果だけで11%の省エネ効果があるとされています。節電への第一歩は見える化から始まります。

―「見える化」の効果だけで1割の省エネ効果があるのなら、目標値の設定次第でしょうが、自動制御できるようになれば2割削減くらいは軽く実現しそうですね。

 

HEMSは約10万円で導入できる

―ところで、HEMSの導入費用は最低どのくらいかかるのでしょうか。
井上氏 リフォームにHEMSを導入する場合は、モニターは家庭にあるパソコンなどを利用すればいいですし、新築の場合ですと先ほどご説明しました「住まいるサポE型」を設置することになります。特にリフォームの場合、住宅分電盤は交換せずに従来のものを使うとすれば、計測ユニットとAiSEGのセットだけでよいので、希望小売価格で10万7,000円<税別>です。さらに、今ですと(2014年6月現在)3分の1の補助金がありますので、実質負担(機器代のみ)はおよそ7万円位です。設置工事費は各家庭の状況により異なります。また大幅なリフォームの場合ですと住宅分電盤を「スマートコスモ」に交換することをおすすめします。スマートコスモには計測ユニット機能を搭載している上に、将来のいろいろな機器の増設にも対応できるようになります。「スマートコスモ」は回路数により費用は異なりますが希望小売価格7万9,700円~品揃えています。これにAiSEGの4万円を加えると11万9,700円。3分の1の補助金があるので、それでも実質負担は8万円程度です。

―実質負担(設置工事費別途)が8万円程度からHEMSが導入できるとは、意外に安くて驚きました。太陽光発電など再生可能エネルギーの普及や住宅の効果的省エネルギーに欠かせないHEMSがどんどん普及することを願っています。ありがとうございました。
(インタビュアー:久米谷弘光)

パナソニックの「スマートHEMS」の参考URL
http://www2.panasonic.biz/es/densetsu/aiseg/index.html