1.気候変動の影響

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書では、地球温暖化について何も対策をしなかった場合、今世紀末には気温が最大で4.8℃上昇するとしている。

昨年11月には世界銀行が報告を発表した。適切な温暖化対策を取らなければ、2030年までに1日1.9ドル未満で暮らす貧困層が新たに1億人以上増えるとの試算である。その理由は、食料生産の減少や感染症の広がり、気象災害などであり、温暖化被害の軽減策(これは適応策と呼ばれている)の充実のため、更なる途上国支援が必要としている。世界銀行は1日1.9ドル未満で生活する人々を貧困層としており、2015年には世界で約7億人いると推定している。

報告書によると、温暖化による影響で、農地が30年までに5%失われ、干ばつに見舞われる人も9~17%増加するとしている。気温が2~3℃上昇することで、マラリアにかかるリスクがある人も、1億5千万人以上増える。洪水や干ばつなどの気象災害の被害は、高所得者層より低所得者層が大きい上、社会保障も不十分だとしている。こうした影響で、1億人以上が貧困生活に追いやられ、サハラ砂漠以南のアフリカや、インドなどの南アジアで特に深刻になるという。貧困化を防ぐために、上下水道の整備や低地からの移住に加え、治水の高度化や気象災害の早期警報システムの整備、温暖化に強い穀物の導入などをあげている。その上で、「実現には国際社会の支援が不可欠だ」としている。(2015年11月朝日新聞より)

気候変動に関するNPOである「クライメート・セントラル」の予測では、温暖化が進んで産業革命前と比べ気温が4℃上がった場合、海面が8.9メートル上昇し、世界で6億2700万人の住む地域が海に沈むとのことである。日本は人口の4分の1にあたる3400万人の住む地域が影響を受けるという。気温が4℃上昇したとき、影響を受ける人口が多いのは中国で、1億4500万人に上る。マーシャル諸島は人口の93%、オランダは67%が影響を受けるという。都市別では、上海や天津(中国)、ダッカ(バングラデシュ)、コルカタ(旧称カルカッタ、インド)などで1千万人以上に影響が出る。

東京でも750万人、大阪では620万人、名古屋340万人、福岡97万人の住む地域が海面より下になる。気温上昇が2℃に抑えられた場合は、海面上昇は4.7メートルで、影響を受ける人口も世界で2億8千万人、日本では1800万人(東京420万人、大阪420万人、名古屋210万人、福岡51万人など)に抑えられるという。(2015年11月朝日新聞)このような数字を聞かされると、どんな対策ができるのかと考えるのが普通だろう。

2月の末、ハリウッドでアカデミー賞の授賞式があった。「レヴェナント:蘇えりし者」でオスカー主演男優賞を獲得したディカプリオは、受賞の挨拶で「地球温暖化を止めなければならない」という挨拶をした。彼はローマ法王フランシスコと会見して地球温暖化対策の話をし、地球温暖化をテーマにした小説の映画化を進めている。

2.COP21

さて、2015年11月パリでCOP21が開催された。COPは気候変動枠組条約の締約国の会議で、1995年から毎年行われ今回は21回目になった。

パリはCOP21よりもテロ対策で大変だった。1月7日に風刺週刊誌シャルリー・エブド襲撃事件、11月13日にはサッカー場とロックコンサート会場バタクラン劇場でテロがあった。COP21の2週間前にもテロがあったのである。COP21を中止にしようにもあまりに期日が接近していて中止にできなかったのであろう。テロはいずれもパリ市の11区の周辺であり、COP21の会場はこれより北東側4キロのところだったが、幸いなことに会議中にはテロは起きなかった。

COP21の開会のあいさつで、オランド大統領は人類が取り組まねばならない課題として「テロと地球温暖化の解決にはどちらも国際社会の連帯が必要だ」と強調した。世界銀行の報告にあるように、温暖化によってアフリカと中東で小麦の生産が落ち込み食料の価格上昇が起きてテロを醸成する原因になっているという。このふたつは関係があるというのだ。

開催国フランスの外務大臣ローラン・ファビウスが議長となり、開始時には、2℃目標を達成する野心的な合意をすることが成功の条件だと述べた。2℃目標というのは、産業革命以後の地球の平均気温の上昇が1℃に達しており、この温度上昇を2℃未満にするという意味である。「野心的な」という言葉がニュースの紙面に踊っていた。結果としてどのくらい「野心的な」結果になったかを、われわれはあとで知ることになる。

さて久しぶりに多くの注目を集める国際会議なので、いろいろな役者が登場してさまざまなスピーチをしている。

チャールズ皇太子が出席してスピーチをした。人類の歴史の中で、世界中の多くの人々が、これだけの少数の人々に自らの運命を委ねたことはない。この会議の成果は、現世代の人々の運命だけではなく、まだ生まれていない世代の運命をも決める、という趣旨のスピーチであった。

オバマ大統領のスピーチもあった。「200近くの国の代表がここパリに集っている。私たちは、地球を守る決断をする瞬間にいる。私たちは、温暖化によって壊滅的な影響を受ける将来を変える力を持っている。ここで今しかない。今、私たちが立ち上がれば、将来を変えることができる。米国は、世界最大の経済大国として、そして、世界第2位の温室効果ガス排出国として、温暖化問題を生み出したことを認識するだけではなく、責任を果たしていくつもりだ」というものであった。この世界第2位の排出国と強調したが、第1位排出国は中国になってしまったのである。

京都議定書から離脱したアメリカが参加したのには理由がある。アメリカ議会は、上下院とも共和党が過半数を占めていて、民主党のオバマ大統領は、条約にすると議会を通せない状況にある。何が決まろうと条約と違って議会の承認手続きが不要なものになったのでオバマ大統領が出席したとも言われている。オバマ大統領は、残り1年の任期にレームダックになりながらも、何とか歴史に残る大統領になるための活動をしているようだ。キューバとの国交回復を宣言して、3月21日にはキューバを訪問した。ノーベル平和賞を受賞してプラハでは核軍縮スピーチをしたし、アメリカが原爆を投下した広島の訪問も検討中であると報じられている。こうしたなかで、地球温暖化対策も歴史に残る重要な仕事になると考えているのであろう。

3.パリ協定

さてCOP21の結果だが、『パリ協定』が決まった。この協定への参加者はすべての国だというところが新しい。COP3の京都議定書では先進国だけに排出削減の責任があるとしたのだが、今回は、出席したすべての196ケ国がこの問題について対策をもつということになった。『パリ協定』の主要内容は以下のようになった。

●すべての国が参加して、産業革命以降の平均気温上昇を2℃未満に抑える。
●今世紀後半には、化石燃料からのCO2排出を正味ゼロにする。
●各国は2030年の削減を示す約束草案を提出する。
●約束草案を5年ごとに見直し提出する。
●前の期よりも進展した削減策を示すこと。
●そのための資金を先進国が拠出する。途上国にも資金の拠出を奨励する。
●参加した196ヵ国が温室効果ガスを減らす努力をする。

2℃に抑えるだけでなく、できるなら1.5℃に抑えることも目標に入れる。これは、海面上昇に直面する島嶼国が緊急性を訴えるために示した数字で、2℃では被害が増大するからもっと早く効果が出るような対策が必要だということであった。これも結論に含まれている。できそうにないが、目標に入れたということだ。これはほとんど実効性がないことがわかっているのに、会議では最後にどこの主張が取り入れられたかが残るので重要らしい。確かに196ケ国がすべて参加するのはいいことだ。しかし、京都議定書と違って法的な制約がないから、本気で取り組むかどうかわからない。努力目標ということである。それぞれの国が2030年までの自分の国の削減目標を約束草案で宣言する。そして、それを5年ごとに検証する。しかし削減できなくても罰則はない。

京都議定書に参加していなかった中国も参加した。中国は、2030年にはGDP比で排出量を抑えるとしている。これはGDP原単位で排出削減をするという表現になる。GDPが増えるので単純に削減は約束できないが、GDPの増加割合に対して60~65%少ない排出にするとしている。これでも実際の数値をみると2030年には2012年より20%も増大し、排出するCO2は年間100億トンを超えるのである。

表1には、この結果として2030年の主要国のCO2排出量がどうなるのかをまとめてみた。中国とインドの削減目標は、GDPあたりの削減量であり、2030年にはGDPが増大するので実際の排出量は増大する。ロシアの削減目標は1990年の大きな排出量を基準にした削減なので、2030年には2012年より増大する。2030年の世界の合計予測値は365億トンの排出であり、これは2012年より15%増加する。つまり、COP21は196ケ国が集まって、2030年の排出量を15%増加することに決めたということになる。

ところで、日本はさほど注目を浴びなかった。いつものように国際環境NGOからの『化石賞』を頂戴することもなかった。『化石賞』は削減に後ろ向きの国に送られる不名誉な賞である。他にひどい国がいたので日本は対象にならなかったようだ。日本の目標値は、基準年を排出量の大きな2013年にしておいて、2030年の削減目標が26%という「野心的」とは思えない数字だったが、誰も問題にしなかったようだ。

ファビウス議長の閉会の挨拶でパリ協定が決まったときには歓声が上がったという。長い間もめにもめてきたのに、決まるときにはあっという間だった。人間はそれが良くないとわかっていても、すぐにやめられない、時間がどんどん過ぎていく。これまでCOPでは何も決まらないことが多かったので、決められたのは素晴らしいことだ。しかし、この程度のことを決めるのに21年間もかかったのだとも考えられる。それにパリ協定だけでは、世界の将来を変えるには不十分である。こう思うと憂鬱になってくる。セーヌ川を挟むパリの街並みは世界一美しい。私はパリこそ世界中で最もエレガントな街だと思っている。だが襲ってくるのは、パリの憂鬱である。

表1 各国の約束草案とCO2排出量 (環境省資料より作成 システム技術研究所)
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4.再生可能エネルギーの普及

嬉しい話もなくはない。再生可能エネルギーの導入が進展している。
再生可能エネルギーは、枯渇しない持続可能なエネルギーであり、水力、バイオマス、太陽光・太陽熱、風力、波力、地熱、潮汐などがある。英語では「Renewable Energy リニューアブル・エナジー」という。「再生可能エネルギー」はこの直訳で、Renewableというのは再び新しくなるという意味である。「自然エネルギー」という言い方をすることもあるが、石油や石炭も自然界から取り出して利用するものであり、「自然エネルギー」ではないか、という反論がでてくる。そこで、より正確な日本語として、堅苦しい言い方であるが「再生可能エネルギー」としている。

再生可能エネルギーのなかで急激に普及が進展しているのが、風力と太陽光である。

最近の世界の風力発電は、図1のように中国1億1,500万kW、アメリカ6,590万kW、ドイツ3,920万kW、スペイン2,300万kWとなっている。しかし、日本は292万kWしかない。ドイツは、日本より国土面積はすこし小さいにも関わらず、日本の13倍の規模の風力発電がすでに稼働している。


図1 世界の風力発電

図2には、人口ひとりあたりの風力発電容量をグラフにしてみた。デンマーク852W、スペイン500W、ドイツ476Wの3国が大きい。中国とインドは人口が大きいために、人口ひとりあたりでみると小さな発電容量になる。それでも中国は、ひとりあたり86Wと、日本の23Wより大きくなっている。風力はこうして経済的な投資になっているのに、日本は2周遅れで回復するのは相当しんどい状態である。


図2 人口ひとりあたり風力発電

風力発電の設計方法にも変化が生じている、比較的風速の小さな地点でも1年間の発電量を大きくする技術として、風車の直径を大きくすることが試みられている。これは設計点の定格風速を小さくして低い風速の風をできるかぎり拾い上げる設計である。
このほかには、タワーを建てずに地上400~600メートルの高さにヘリウム飛行船を浮かべてその中に高速タービンを設置する風力発電が、ボストンのベンチャービジネスによって開発されており、ソフトバンクも三菱重工も投資したようである。この方式は建設費が大きいタワーが不要で、凧揚げのような方法で空中に風車を浮かべるので、地上付近に比べて大きな風速が得られて、投資効率がよいかもしれない。いずれにしても日本の風力発電は先進国のなかでは最も遅れている。どうにかしなければならない。

次に、太陽光発電をみてみよう。図3に示すように、ドイツ3,820万kW、中国2,820万kW、これに続くのが日本であり2,330万kWとなっている。 日本では2012年のFIT(固定価格買取制度)の導入によって急激に増加した。15年前には世界一だったのに、固定価格買取制度の開始によってどうにか挽回しはじめたところである。

個人が住宅の屋根の上に設置するだけでなく、多くの企業が未利用地にメガソーラーを建設し、あるいは工場や倉庫の屋根に太陽光パネルを設置している。一部の地域では、別荘地帯の森林を伐採してメガソーラーを建設して、周辺の光景を変えてしまうようなことも生じており環境問題になっている。遅ればせながらこれには自治体が対応策を打ちだしているようだ。
発電コストはほぼ学習曲線に沿って低下しており、累積生産量が2倍になるとコストが80%に低下する現象が続いているようだ。2020年ごろには既存の電力価格との差がなくなると考えられている。太陽光パネル自体のコストは実は設備全体のおよそ4割で、設置方法や周辺装置にかかる費用も低下させる試みが行われている。


図3 世界の太陽光発電


図4 人口ひとりあたり太陽光発電

図4には、人口ひとりあたりの太陽光発電容量を示した。ドイツ464W、イタリア309Wの次が日本の184Wになっている。日本のひとりあたりの数値はスペイン、フランス、イギリスよりも大きい。ここ数年で大きく導入が進んだためである。

道路に太陽光発電を建設することが話題になっている。米国のソーラーロードウエイ社が政府の補助を受けてこのような研究開発を始めた。オランダでは自転車道路に太陽光パネルを埋め込むことが行われている。フランスでは大手の道路建設企業が国立研究所と共同研究をして、道路に埋め込む太陽光パネルを開発している。強度と耐久性と発電効率を満たす材料が見つかったのかも知れない。このような試みが進展すれば、太陽光発電は、非常に大きなポテンシャルを持ち、ほとんどすべてのエネルギー需要に供給できるものになると期待される。

5.日本の再生可能エネルギーのポテンシャル

表2には、日本の再生可能エネルギーの現状、最大ポテンシャルの数値をまとめてみた。現状の規模と比べてみると、まだまだ開発余地が多くあることがわかる。

表2 日本の再生可能エネルギー

(再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査(環境省)およびNEDOの「PV2030+」による。太陽光、太陽熱、TOE=石油換算トン)

太陽光発電のポテンシャルは、3~4億kWとする調査結果が多い。これは、発電効率を10%程度にしているので、効率が改善すればさらに大きくなる可能性がある。発電効率はすでに20%を超える製品が現れており、2030年ごろには25%を超えると思われるので、ポテンシャルは7億kW以上になると考えられる。既存の建物の屋根や壁、空いている土地のどこにでも設置できるので、実際のところ上限はないのに等しい。上に記したように最近は道路に設置することも行われている。

風力に関しては、環境省の調査があり、陸上風力2億8,293万kw、洋上風力15億7,262万kwのポテンシャルが示されている。陸上では北海道、洋上では九州が最大である。日本風力発電協会のビジョンでは、2050年に陸上3,800万kW,洋上3,700万kW合計で7,500万kWの発電が可能、ポテンシャルとしては2億3,000万kW以上としている。洋上では年間の設備利用率が大きくできるので、風車の経済性が向上する。すでに鹿島灘や福島沖で洋上風車が発電を開始している。

このほかに揚水発電が2,513万kWあり、電力貯蔵用として風力と太陽光の変動を吸収するために利用できる。電気自動車のバッテリーを未使用時には送電線につないで電力貯蔵に使うことも可能だ。風力や太陽光が大量に導入されて、需要と供給の差から生じる変動を吸収するのに、余剰電力で水を電気分解して水素を生産して利用することも考えられる。水素は貯蔵コストをバッテリーよりも小さくできるので可能性がある。水素を燃料にする小型の効率のよい燃料電池が作られて、燃料電池車が実用化されている。

日本の太陽光発電と風力発電の特性をシミュレーションによって調べてみた。アメダスの気象データを使って、太陽光842地点、風力は風況のよい90地点を抽出して、1年間の発電シミュレーションを行ってみると、太陽光は春から夏にかけて発電量が大きくなるが、風力は逆に夏には小さく冬に大きいことがわかった。したがって太陽光と風力を組み合わせると効果的である。

これまでは石炭火力発電や原子力発電が低コストなのでベースロード電源だと言ってきたが、この概念も変化しつつある。太陽光や風力発電は、自然界からエネルギーを受け取れる時に動作させるのが重要であり、いつでも第一にこれを優先的に動作させて、必要に応じて他の電源を動かすのが本筋である。需要に応じて運転可能な化石燃料発電などは最後の手段にするべきである。このように考えれば、最近問題になっている太陽光の発電抑制というような問題の扱い方が根本的に異なってくるはずである。

6.100パーセント再生可能エネルギーの研究

ドイツでは電力の26%を再生可能エネルギーが供給するようになった。この先には、ひとつの国のエネルギー需要を100パーセント再生可能エネルギーで供給するにはどうしたらよいかという野心的な研究が生じてくる。
実際に、「将来の主要なエネルギーの80~100%を再生可能エネルギーで供給可能だ」とする研究が、最近の欧米のエネルギー誌に発表されている。たとえば、2010年、スタンフォード大学のジェイコブソンらが「世界化石燃料全廃計画」という論文を発表した。2030年までに、世界のエネルギーのすべてを、水力、風力、太陽で満たすシナリオを提唱している。さらに2012年、米国の国立再生可能エネルギー研究所は、2050年の米国の電力の80~90%を再生可能エネルギーで満たすシナリオを発表している。電力に占める再生可能エネルギーは、大きい順に、風力、太陽光、集光型太陽熱発電、地熱、バイオマス、水力となっている。

人類は、食料に関して大昔に自然界からの「狩猟と採取」に行きづまり、「農業生産」に転換したと言われている。エネルギーについても、地下の化石燃料や核燃料に依存する「エネルギー狩猟型文明」から地上で太陽エネルギーを捕えて利用する「エネルギー耕作型文明」への歴史的大転換が始まっている。ヨーロッパやアメリカや中国など世界中がその方向に向かっているのに、残念ながら日本は遅れをとっている。日本のエネルギー政策の大きな転換が必要になっている。
『パリ協定』がこうした政策の転換を加速する起爆剤になって、憂鬱を吹き飛ばして欲しいものである。

(記事:株式会社システム技術研究所 所長 槌屋治紀)