「人間の安全保障」から日本の安全保障を考える

昨年2013年の循環ワーカー養成講座のテーマは「人間の安全保障」。
安倍政権が発足して以来、東アジア外交における緊張感がますます高まり、特定秘密保護法、集団的自衛権、憲法改正を含む「国家の安全保障」の問題が注目を集めている。
「人間の安全保障 (Human Security) 」は、アマルティア・センの影響を受けて1993年に国連開発計画(UNDP)が『人間開発報告』において唱えた「国家の安全保障」と対比される概念。環境破壊、食糧や資源の欠乏、人権侵害、難民、貧困などの人間の生命、生活、尊厳を脅かすあらゆる種類の脅威を包括的に捉え、これらに対する取り組みを強化しようとするものである。より根源的な「人間の安全保障」の視点から、国際平和を希求する日本の安全保障や環境問題を再考していただく機会になればと企画した。
遅くなってしまったが、その記録を循環研アーカイブに掲載したので、ぜひご一読いただきたい。

2013年度循環型ワーカー養成講座 人間の安全保障
人間の安全保障講師写真

第1回 人間の安全保障とヒューメインシティー
岩浅 昌幸 氏 (筑波大学 准教授)

第2回 寡占化社会が人間に与える影響
―ソーシャルビジネスは資本主義システムを救えるか―
柳平 彬 氏 (グループダイナミックス研究所 代表)

第3回 人間の安全保障―近代文明の危機と超克―
田村 正勝 氏 (早稲田大学社会科学部教授、日本経済協会理事長)

最初の講師である岩瀬氏は、内戦や貧困問題を抱える発展途上国だけでなく、いまや日本においても大震災や原発事故、経済格差の拡大など「人間の安全保障」への脅威が増していると指摘した。また、わが国が小渕内閣のときに国連に「人間の安全保障基金」を設立し、その理念がまさに「人間の安全保障」であったこと、そして「人間の安全保障」は「国家安全保障」と相互補完的であることを指摘している。
さらに、「ヒュ-メインシティ」すなわち人間らしい都市コミュニティを築く技術についてのお話の中では、日本の自然エネルギーや食料資源の豊かさを強調されていた。

柳平氏の講座は、いままでにないグループダイナミクスという手法で展開された。
「寡占化」が人間や社会に与える影響について柳平氏の書いたテキストや流通業、金融業の事例記事を読んでグループごとにディスカッションし、その内容を発表しあった。
最後には、中央銀行と財務省を統合し、政府のみが通貨発行し、民間の信用創造を禁止することで債務・金融危機を回避するという「シカゴプラン」という通貨・金融制度改革プランの話題も提供された。

田村氏は、経済主義に基づく近代化が、自然の破壊、地域共同体の破壊、精神と文化の破壊という3 つの破壊をもたらしていると指摘された。また、アベノミクスはタイミングが良かっただけと喝破した上で、物価上昇、国債下落、金利上昇、景気悪化、財政の崖と、その後の代償は大きいと予測されている。そして、この危機に対処するため、「無利子100年国債」で財政赤字の解消を図るべきと提言されている。

3 人の講師のお話をお聴きし、世界的な資本主義システムの危機が、日本など先進国を含む「人間の安全保障」を脅かしつつあることを改めて認識させられた。世界的な経済の行き詰まりを軍拡や戦争はもちろん、過酷な自由貿易競争で凌ごうとするのは、諸国民の「人間の安全保障」をますます脅かすことになりかねない。政府は「国家の安全保障」を前面に出して外交対立を煽るのではなく、互いの国民の「人間の安全保障」の脅威を削減することを優先すべきではないのか。