環境先進都市アメリカ・ポートランド視察報告―循環型社会研究会副代表 後藤貴昌

これまでサステナビリティ主義社会の“モデル国として、2012年ブラジル、ドイツ、2013年中米のコスタリカ、2014年ブータン、2015年スウェーデン&デンマーク、2016年3月キューバを視察訪問し、循環研通信やセミナーでその報告をおこなってきた。今回は2016年8月にサステナビリティ主義社会の“モデル都市としてアメリカ・ポートランドを視察訪問してきたのでその報告をしたい。ポートランドは、北米大陸の西海岸に位置するオレゴン州最大の都市で人口は約61万人(2013年)。「全米で最もサステナブル(持続可能)な都市」「全米で最も環境にやさしい街」「全米で最も省エネ努力をしている都市」など、さまざまなランキングでNo.1を獲得していて、「全米でいちばん住みたい街」として注目されている。また、「全米でもっとも住みやすい街」、「全米で最も自転車通勤に適した都市」,「全米で最も外食目的で出かける価値のある都市」,「全米で最も菜食主義者に優しい街」,「きちんとした食生活で健康に暮らせる街」,「知的労働者に最も人気のある都市」,「全米で最も出産に適した街」にも選ばれているとても魅力的な街だ。

ポートランドは成田からの直行便が夏季には毎日1便あり、飛行時間は約9時間11分と気軽に出かけられる都市である。デルタ航空のスカイ・マイレージが溜まっていたので、それを使って8月21日(日)に日本を出発し、ポートランドに8日間滞在した。夏季は天候が安定していて、ポートランド滞在中の8日間とも快晴だった。

さてポートランドの現地視察を行って、「全米で一番住みたい街」であることが充分に納得できた。ただ誌面の制約上、その全てを語ることは難しい。この循環研通信では何故「全米で最もサステナブルな都市」に選ばれているのかを「サステナブルな交通手段」と「サステナブルなビル」を中心に記述していきたい。

「サステナブルな交通手段」

自動車中心のアメリカ社会において、ポートランドは自動車を抑制した交通システムを上手に構築している。ポートランドはコンパクトシティとしての計画の下で、ライトレール(新型路面電車)、バスなどの公共交通機関がしっかりと整備されている。ポートランドの都市部とその近郊の町を結ぶ公共交通を運営する組織が、トライメットTriMetである。マックス・ライトレール、ウェス・コミューターレール、ポートランド・ストリートカー、バスが市内を縦横に走っていて、これらの公共交通は全てトライメットが運営している。

当初は現地でレンタカーを借りようと思っていたが、トライメットの1日パス($5)、1週間パス($26)で便利にかつスムーズに移動できるのでレンタカーの必要性を全く感じなかった。

そして、自転車システムがとても充実しているのには大変驚いた。なんとポートランド市内に500㎞にも及ぶ自転車専用レーンがあり、自動車よりも自転車を優先している交通システムが構築されている。例えば、下記の写真に見られるように、一方通行の道路の中央が自転車専用レーンになっていた。

自転車専用レーン(一方通行道路の中央部にペイント)

自転車レーン

 日本でも近年、自転車専用レーンの普及をすすめているが、残念ながら自動車道路の歩道側に自転車専用レーンが設置され、自動車の駐車スペースとして使われていることが多い。またレンタサイクルの仕組みは日本でも普及しだしているが、ポートランドではレンタサイクルのステーションの数が多い。レンタサイクルの登録・運用はスマートホンを活用するシステムになっている。また、公共交通機関に自転車と一緒に乗車できるシステムが整っている。

レンタサイクル・ステーション

レンタル自転車

公共交通機関内の自転車置き場

 公共交通機関内の自転車

そして、旅行客向けの自転車ツアーも充実している。8月22日(月)に「自転車ポートランド歴史観光3時間」ツアーに参加した。信号のない交差点では自転車を優先的に扱ってくれる自動車の運転手のマナーの良さにも感心した。

ポートランドには多くの橋がかかっているが、橋の自転車専用レーンも充実しており、快適に橋を渡ることができた。引き続き、8月24日(水)に「サイクリング付きオレゴンワイナリー5時間」ツアーに参加した。前回と同じツアーガイドが親切にナビゲートしてくれて、ポートランドにおける2回の自転車ツアーを十分に満喫することができた。

自転車ポートランド歴史観光・ツアー

 自転車観光ツアー

 そしてポートランド市内は見どころが多く、徒歩で回遊したくなる街でもある。

ポートランドのダウンタウンの街区は正方形で一辺の長さが約61メートルとアメリカで最小であり、歩きたくなるストーリーとして設計されている。自転車ツアーに参加した日以外は、一日あたり15,000歩~20,000歩の歩数計カウントを常に確保した。

 

 「サステナブルなビル」

ポートランド市内を歩いていたら、屋上に巨大な風車があるビルに出会った。調べてみると、このビルは2010年にアメリカ建築家協会から全米で環境にやさしいビルの一つとして表彰を受け、LEED(Leadership in Energy & Environment Design)プラチナ賞を受けている12WESTだということがわかった。私はこの12WESTの屋上に上がりたいと思ってビルに入ったが、セキュリティが厳しくて出来なかった。2階~5階にはこのビルのデザインを担当したZGFの本社が入っており、厚かましく受付で見学のお願いをした。

屋上の風力発電機(4基)

風力発電4基

幸いにデザインを手掛けたZGFの渡辺さんに案内していただくことになり、屋上に上がった。そこには巨大な風力発電機が4基あり、強風にも耐えられるように風力発電の基礎部分にはスタビライザー(安定化装置)を設置してあると説明してくれた。

風力発電機のスタビライザー

風力発電スタビライザー

この風力発電で発電された電力はこのビルのエレベーターなどの電力源として使われているとのことだ。

屋上に太陽光発電機が設置してあるビルはよく見るが、この12WESTは太陽光発電ではなく風力発電機があり珍しい景観になっている。

なぜ太陽光発電機ではなく風力発電機なのかと渡辺さんに尋ねたら、年間を通じて日照時間があまり取れないので太陽光発電機は設置していないのだと答えた。しかし太陽光発電機の代わりに太陽熱温水器が設置されていた。

太陽光発電機のエネルギー効率は15%~20%であるのに対して、太陽熱温水器のエネルギー効率は40~50%と言われている。同じ太陽エネルギーを活用する場合には、エネルギー効率の視点から、電気としてより熱として利用した方が良いので太陽熱温水器を設置しているのだろう。

この太陽熱温水器で作られた熱水は12WESTの6階~22階にあるアパートであるインディゴ@12WESTの温水シャワーなどに活用されているという説明を受けた。

屋上部には広い植栽があった。これは単なる屋上緑化のためだけでなく、雨水を濾過するシステムになっているとのこと。濾過された雨水は地下タンクに貯められて、トイレ洗浄水として使われているそうだ。

屋上緑化

そのほかにも断熱・空調設備を駆使した造りになっていて、なるほどLEEDプラチナ賞を受賞したことも納得できた。

この12WESTの1階部分はレストランやショップがテナント店として入っており、お客はビルの外側からこれらのお店に入れるようになっている。ポートランドでは街の活気を保てるよう12WESTのケースと同様に、下層階に商業施設、中層階にオフィス施設、上層階に居住施設が入っているビルが多い。上層部のインディゴ@12WESTは街一番人気の賃貸アパートになっていて80㎡位で賃貸料が28万円もするそうだが、常時100人ほどが空室待ちをしているという。12WESTはサステナブルなビルとしてポートランドの象徴になっている。