藤沢サスティナブルスマートタウンは本当にサスティナブルか

9月6日、循環研のフィールドワークで藤沢市のパナソニックの工場跡地に開発された「FujisawaSST(藤沢サスティナブルスマートタウン)」を見学した。「FujisawaSST」は、パナホームや三井不動産などによる1000世帯の戸建住宅(600戸)とマンション(400戸)、商業・福祉・教育・商業・交流などの多様な施設からなる約19haの街区開発である。ここに最先端のエネルギー・環境・ICT技術が導入され、住民起点のサスティナブルスマートタウンづくりが始まっている。
案内役は、最近ここに居を構えた循環研理事の後藤貴昌さん。彼の仕事場(サステナブル経営研究所)でもあるご自宅におじゃましてお話をうかがった。

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出典: FujisawaSSTホームページより転載

JR藤沢駅に集合したわれわれはバスで5分、徒歩5分で「FujisawaSST」の戸建街区販売センターに到着。まずは販売センターで住宅購入予定者と同様に物件紹介映像を見た。
映像は、湘南藤沢の周辺の観光地などの紹介が主でサスティナブルの要素もスマートタウンの要素も薄く、少し肩透かしを食らった感じだ。しかし、そのあとパナホームの担当者から、軽量鉄骨軸組構造で地震に強い「POWERTECH(パワーテック)」、エコナビ搭載の換気システムで空気環境をコントロールする「PURETECH(ピュアテック)」、30年間メンテナンス不要の高機能外壁「KIRATEC(キラテック)」、そして、太陽光発電と蓄電池による「創蓄連携」などの話をたっぷりうかがった。

契約アンペアは100A

パナホームの担当者の話で気になったのは、電力会社との契約アンペアが100Aにもなるということだ。
省エネルギーの観点からは、60Aの家庭では50A、40Aに、40Aの家庭は30A、20Aにと契約アンペアを落とす努力が通常推奨される。太陽光発電パネルを標準装備して「創エネ・省エネ・蓄エネ」を謳うスマートタウンが100Aもの大きな契約アンペアを基本にしているというは、にわかには信じられなかった。

あとから担当者に確認したところ、「FujisawaSST」の戸建住宅では、ソーラー発電とエネファーム(東京ガスの燃料電池)の組み合わせの「ダブル発電タイプ」と、ソーラー発電とエコキュート(東京電力の夜間電力給湯器)の組み合わせの「オール電化タイプ」が選べる。オール電化タイプの戸建では、エアコン、IH、エコキュート、そして電気自動車用屋外充電コンセントなどが200V仕様で70A以上を必要とし、東京電力の基本料金は70A~100Aまで変わらないので、100A契約にしているということだった。エネファームを使う「ダブル発電タイプ」は60Aの契約だという。

「FujisawaSST」がめざすのは、100年先まで、その時々いちばんの快適&エコで安心・安全なくらしということで、つつましい倹約型の省エネ生活ではない。最新の快適な電化生活が提供され、シャッターも電動で開閉する。かといって、どんどん発電して、どんどん売電し、じゃぶじゃぶ電気を使うという訳でもない。タウンのガイドラインによって、太陽光発電パネルは一戸当たり4.8kWまでに制限されている。

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モデルルームを見学する循環研のメンバー

そもそも標準的な戸建の土地区画面積が40坪とそれほど大きくない。その代わり、家具や家電、「HEMS(ヘムス:ホームエネルギーマネジメントシステム)」を含むスマート設備は最先端のものが標準装備されている。「サスティナブル・スマートライフ」を実現するタウンマネジメントの仕組みも計画されている。価格は5000万円台から6000万円万円台と藤沢の周辺地域と比較すると少し高めだが、それに見合う価値があるというのが、案内役の後藤氏の評価だ。

自律性と多重性による安心・安全

後藤家を訪問したときにのぞいた電気メーターは昼間から勢いよく回転していた。それは、この日のために借りていたBMW社の電気自動車BMWi3に充電していたからである。ここの戸建には基本的な家具や家電のほか電気自動車用の充電用コンセントが標準装備されている。たぶん、このEV充電用屋外コンセントも大きな契約アンペアを必要としているのだろうが、後藤家では、「ダブル発電タイプ」を選択しているので契約アンペアは60Aだ。

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後藤邸と話題の電気自動車BMWi3

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BMWジャパンからモニターとして借りているBMWi3に充電中。

太陽光発電パネルとエネファームで発電した電気をリチウムイオン蓄電池に充電。さらにその発電状況や電力・ガス・水道の消費の状況をHEMSで見える化し、省エネ意識が高められる設計になっている。
ペンギンのキャラクターでおなじみのパナソニックの「スマートHEMS」で発電状況を見ていると、やはり晴れの日がうれしくなるという。「スマートHEMS」はHEMSモニターだけでなく、テレビ、スマートフォン、PC、タブレットなど多様な端末からアクセスできる。「FujisawaSST」には住人専用ポータルサイトがあり、家にいながらセントラルパークで遊ぶ子どもの姿がリアルタイムで確認できる。また、自宅のエネルギー使用状況だけでなく、街全体のエネルギー使用状況もわかり、「エコライフ・レコメンドレポート」も配布される。

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ご自宅のリビングでHEMSについて説明する後藤氏

「ダブル発電タイプ」の後藤家では、雨天などで太陽光発電ができない場合でもエネファームが発電をバックアップ。エネファームは燃料電池システムによる電気と熱の利用で、エネルギー効率が90%に迫る。またエネファームの給湯のバックアップとしてガス給湯器が備えられている。

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エネファームにはバックアップのガス給湯器が必要と説明する後藤氏

「FujisawaSST」では、タウンの中心にある集会所「コミッティセンター」で日産の電気自動車リーフのカーシェアリングが行われている。そこには当然充電スタンドも設置されており、必ず各戸に電気自動車の充電設備が必要でもなさそうな気もする。
そもそもこの街では、停電になったとしても、どこの戸建てでも太陽光発電があり、蓄電池があり、さらにエネファームもあるので困らない。街全体としてもコミュニティソーラーが400m設置されていたり、コミッティセンターや公園の東屋の上にソーラーパネルがあったりする。さらにカセットボンベ式の発電機、電気自動車からの電力供給装置など3日分の防災設備と備品は備えられている。

東日本大震災以来「レジリエンス(強靭性)」が注目されているが、その重要な要素のひとつが冗長性である。多様なエネルギーによるバックアップが生態系のように相互につながってレジリエントな機能を発揮する。少し過剰のようにも思えるが、このエネルギーに関する自律性、多重性が安心・安全につながっているのだろう。

エネルギーの次は水と食料も

後藤家の自慢のひとつはオプションとして雨水タンク・コンポスト・太陽熱クッカーなども備えていることである。晴天が続いた時には雨水タンクだけでは庭の水やりは十分ではないが水道代の節約になる。
庭にはできるだけ実のなる植物を植えて食料を確保する。庭だけでは足りないので、近くの農園に畑を借りて自給自足を図る計画だという。

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後藤家の庭には実のなる木がいっぱい。奥にはオプションで設置した雨水タンク。

家とコミッティセンターを案内していただいた後に話題の電気自動車BMWi3に試乗させていただいた。この車のボディは三菱レーヨン製の炭素繊維でできている。したがって重量は鋼板製の半分だという。従来の塗装もいらないので、排水も出さず、塗装工程のエネルギー消費量も4分の1だということだ。工場のエネルギーも100%再生可能エネルギーを使用するなど、生産工程の環境負荷削減にもこだわったようだ。車体が軽い電気自動車だけに、音もなくぐんぐん加速する感じは申し分ない。電気残量が少なくなると自動的にガソリンで発電する装置の付いたBWWi3レンジエクステンダーでは9ℓ満タンで走行距離も300㎞以上と電気自動車にしては長い。

BMWi3
われわれもBMWi3に試乗させていただきました。

さて、「FujisawaSST」に話を戻そう。「FujisawaSST」はCO2排出量70%削減〈1990年比〉、生活用水30%削減〈2006年一般普及設備比)、再生可能エネルギー利用率30%以上、安心・安全目標としてライフライン確保3日間を数値目標として掲げている。現在FujisawaSSTマネジメント株式会社がタウンマネジメントを担い、その目標を達成しようとしている。

現状はまだ、戸建街区の一部が販売されているだけだ。共有施設としては、コミッティセンターとセントラルパークが整備されているだけで、商業施設、健康・福祉・教育施設もマンション街区も整備されていない。すべての整備が完了するのはパナソニックが100周年を迎える2018年だという。そして「100年先まで、その時々にいちばんのくらしを提供する」仕組みをもつ街として発展をめざす街に完成はないのかも知れない。

「FujisawaSST」が本当にサスティナブルな街であるなら、やがてCO2はゼロ、生活用水は雨水と地下水になり、再生可能エネルギー利用率は100%、水も食料も最低限自給でき、外からの物資やエネルギー供給が止まっても数カ月は暮らせるレジリエントな街になっているだろう。それを実現できるかどうかの鍵を握るのは、パナホームや三井不動産などのデベロッパーではなく、FujisawaSSTマネジメント株式会社やパナソニックでもない。ここに集った住民の意志と知恵と自治にかかっていると思う。「FujisawaSST」の今後に注目したい。

(取材・記事:久米谷弘光)

FujisawaSSTホームページ
http://fujisawasst.com/JP/