2012年8月に京橋に移転した清水建設新本社は、環境や景観への配慮、室内の快適性など建物の品質を総合的に評価するCASBEE(建築環境総合性能評価システム)において、過去最高得点となるSランクのBEE値9.7を取得した(2012年2月時点)。
BEE値というのは、環境性能効率 (BEE, Building Environmental Efficiency) のことで、BEE=環境性能の総合評価値/環境負荷の総合評価値という式で算出される。これが3.0以上であればSランクの建物となり、それだけでもハードルは高いのだが、これが9.7と最高得点を獲得した清水建設新本社ビル。
NPO法人循環型社会研究会のメンバーとともに見学してきた。

清水建設新本社は、京橋の昭和通り沿い、味の素本社と兼松ビルの間にさりげなく建っている。新しいビルとして異彩を放つことはなく、前からずっとそこに建っていたように周辺の景観と調和している。
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建物に入ってまず目を引いたのが、エントランスの大きなガラスを支えるX型のアルミキャスト(アルミの鋳物)と木目が転写されたコンクリート。さりげなく建築技術や意匠性の高さをアピールしている。
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ハイブリッド外装
建物の外周を覆うのは、アルミキャストの中にコンクリートを打ち込んで一体化したごつい窓枠のような構造体。幅3.2m、階高が4.2m、奥行きが90㎝もある。窓の上の奥行きの部分は庇(ひさし)として機能し、日射を防ぎ、熱負荷を50%も軽減するという。確かに派手なガラス張りのビルが一時期流行ったが、明るい代わりに温室のようで、冷房費がかさんでしまう。それに比べるとこちらは質実剛健で、環境的にも経済的にも優れている。
コンクリートには、建物の長寿命化を図るため、ひび割れに強い超高強度コンクリートを採用。骨材の石灰石に合成繊維を混合することで耐火性も確保しているということだ。
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また開口部には、遮熱性に優れたLow-Eガラス、太陽光パネル、耐震パネルが組み込まれており、環境装置としての機能をあわせ持っている。
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太陽光パネルの発電量はオフィスで昼間使用する照明分相当
太陽光パネルは、建物東側の共有部分の窓面には発電効率が高い多結晶型、それ以外には透過性のある薄膜型を採用。窓面への合計設置数は962枚、その面積は約2,000㎡。発電量は年間約84,000kWhを見込んでおり、この数値は昼間のオフィスで使用するLED照明の年間エネルギー量にほぼ相当するという。
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竣工時点でCO2の62%削減の見込み、さらにゼロ・カーボンをめざす
新本社は、竣工時点で、運用初年度に年間CO2排出量の62%削減(2005年東京都内事務所ビル平均比)を見込んでいる。そして、導入後は各技術の最適制御を進め、2015年時点で70%削減を目指すとともに、CO2排出量をできるかぎりゼロに近づける”ゼロ・カーボン”に取り組んでいくとしている。
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そうしたゼロ・カーボンへの取り組みを支えるのが、「シミズ・スマートBEMS」と呼ばれるビルエネルギーマネジメントシステムである。
シミズ・スマートBEMSは次の3つの役割を併せ持っているという。
・太陽光発電や蓄電池の充放電などの多様な エネルギー源を制御する(マイクログリッド制御)
・空調や照明などの設備機器の電力の消費を制御する(デマンドレスポンス制御)
・利用者や建物管理者にとって快適で便利な環境を確保する(環境制御)
これらによって建物内の大幅な省エネルギーを実現する。

エネルギー制御に関しては、東京電力からの電力や太陽光パネルから得られる電力を蓄電池に蓄え、それを計画的に放電することによって使用電力のピークを抑え、契約電力を低減する。また、電力需要の増大時には、共用部の設備の運転停止などによってエネルギー消費を抑制し、社会的な要請に対応するという。
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デマンドレスポンス制御については、翌日の気象情報に基づいてエネルギー使用量を予測し、設備の省エネ運転を計画・実施。運転実績は自動保存され、その後の運転計画に反映される。

環境制御に関しては、照明、空調ともタスク(机)とアンビエント(オフィス全体)としで別々に制御し、かつ個人の好みに合わせて温度や明るさを調整できるタスク&アンビエントシステムを採用しており、特に日射量によるグラテーションブラインドコントロールや輻射空調システムは注目したい。
グラテーションブラインドコントロールは、屋上に設置されている日射量センサーの情報に基づき、太陽光をどの程度室内に取り込むかを計算し、ブラインドの角度を自動調整。室内に差し込む太陽光によって削減される照明エネルギーと、一方で室温の上昇を抑えるために必要な空調エネルギーの総量を最小にするよう、ブラインドをコントロールする。
グラデーションブラインドは、羽根の角度が太陽の高度に従って自動的に変化していくのが最大の特長。これにより、直射日光を遮りまぶしさを抑えながら、自然光を効率よく奥まで導き、オフィス全体を明るくする。
オフィス内の照明器具はすべてLED。室内の明るさに応じて、センサーにより照度を自動制御する。基本的には、執務領域全体はやや暗め、執務机周辺は明るめになるように設定されている。
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タスク&アンビエント輻射空調システムは、室内の温度、湿度、気流を快適制御する。輻射空調は、熱は温度の高いところから低いところへ伝わるという性質を利用したもの。例えば夏場は、天井に設けた輻射天井パネルに冷水を供給することで、室内の熱が天井に向かい、室内温度が調整される。エアコンのような天井からの送風がないため、不快な気流も発生しない。また床下には、換気のために取り込んだ外気を、デシカント(除湿剤)を利用した空調機で湿度調整した空気が流れている。この空気は、個人ごとに設けたパーソナル床吹出口の開閉によって、風量を調節できる。
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新本社はecoBCPの最新モデル
ecoBCPとは、非常時の事業継続機能(BCP)を確保した上での平常時の節電・省エネ、つまりecoを実現する対策のこと。東日本大震災を踏まえた、地球環境に配慮した災害に強い施設やコミュニティづくりにおいて、時代が求める基本機能といえる。新本社に導入された新技術はすべて、このecoBCPの考え方に基づいたもの。
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また、新本社は地域を守る防災拠点としての機能も有している。災害発生時には中央区と連携して帰宅困難者を支援する地域防災センターとなるという。
震災に対しては、42台の免震装置を設置し、構造体と外壁の役割を担うプレキャスト外周フレームと中心部のコアウォールによって、建物を外と内からがっちり支えている。さらに、長周期地震動対策としてオイルダンパーを、無柱空間の床振動対策として回転慣性ダンパーが採用されている。
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CASBEEでは、ハイブリッド外装システム(構造体、高断熱複層ガラス、外装材、太陽光発電等の環境装置などの各機能を兼備)、RC免震構造、輻射空調、デシカント(除湿)、全体照明と個別照明を併用するタスク&アンビエント方式のLED照明などが高く評価されたとのことだが、そうした最新設備のどれもが、さりげなく装備され、機能を発揮している。
説明を受けた会議室の照明は、人がいなくなると自動的に消灯していた。床のデシカントからの空気は、スカートの裾をゆらすこともなく、埃をまきあげることもない。建物の外観も内装も、過剰な豪華さや派手さはなく、さりげない。
見学を終えて「さりげない環境性能の高さ」を感じた清水建設新本社であった。
(久米谷 弘光)

※構造写真や図表は清水建設のホームページから転載させていただきました。