アジア・スーパー・グリッド実現に向けた議論が進展

9月9日、北朝鮮が5度目の核実験をしているとき、東京国際フォーラムでは中国、韓国、ロシア、日本などの自然エネルギーの電力網をつなぐアジア・スーパー・グリッド構想の実現に向けた議論が進められていた。
中国の中国電力企業聯合会(CEC)理事長リュウ・ゼンヤ氏、韓国の韓国電力公社(KEPCO)社長チョ・ファンイク氏、ロシアの送配電企業ロスセチ社長オレグ・ブダルギン氏、そして日本の代表は、電力会社でも電気事業連合会でもない、ソフトバンクグループ会長の孫正義氏である。

asg

この東アジア電力網連携の議論が行われたのは、「自然エネルギー財団 設立5周年記念シンポジウム」である。副題は「世界中の電力網に自然エネルギーをつなぐ―「脱炭素の時代」へ急転換する世界のビジネス―」。自然エネルギー財団は、孫正義氏が3.11後にポケットマネーを出資して設立した「自然エネルギーを基盤とする社会の構築」などを目的とした財団であり、同氏が会長を務め、理事長は元スウェーデンエネルギー庁長官のトーマス・コーべリエル氏が務めている。

自然エネルギー財団は、2011年の設立以来、モンゴルの風力や太陽光資源など、アジア各地の豊富な自然エネルギー資源を相互に活用しあう「アジア・スーパー・グリッド(ASG)」構想を推進してきた。そして、今年3月30日、その世界版の送電ネットワーク“Global Energy Interconnection(GEI) ”の構築をめざし、新たに創設された国際的非営利団体、”Global Energy Interconnection Development and Cooperation Organization(GEIDCO)”に、理事会メンバーとして参加している。
GEIDCOには、中国、韓国、ブラジル、ロシアなどの電力会社、大学・研究機関、送電分野の世界的企業などが参加。GEIDCOの会長には、中国国家電網会長のリュウ・ゼンヤ氏が就任し、副会長には、孫正義氏が、元米国エネルギー庁長官のスティーブン・チュー氏とともに就任している。

ソフトバンクグループのSBエナジーは、すでに都道府県を正会員とする「自然エネルギー協議会」と指定都市を正会員とする「指定都市自然エネルギー協議会」と連携し、各地でメガソーラーなどの自然エネルギーの開発に取り組んでいる。2012年7月1日に稼働を開始した京都市および群馬県榛東村のメガソーラー発電所を皮切りに、2015年7月3日現在、全国で16カ所(19基)のメガソーラー発電所が稼働しており、新たな発電所を稼働させる準備も進めている。これに対して、原発再稼働に固執する電力会社は、根拠の乏しい「接続可能量」を理由に電力系統への接続を制限している。これが現在日本で自然エネルギーの普及が立ち遅れている最大の原因である。

接続可能量は電力会社間の送電網の系統連系を利用すれば大きくなる。アジア・スーパー・グリッドなど国際的な系統連系が実現すれば、さらに格段に大きくなり自然エネルギーの活用が進む。ソフトバンクグループ及び自然エネルギー財団は、日本の電力会社に対して根拠の乏しい接続可能量を見直すよう、国際的電力系統連系推進をリードすることで揺さぶりをかけているという構図も見て取れる。

国内において電力会社、電力事業連合会、経団連、経済産業省等が展開している狭隘で保身的な接続可能量の主張に対し、世界版の送電ネットワーク“Global Energy Interconnection(GEI) ”の実現は人類の理想に近い。孫氏はプレゼンテーションの最後に「地球のどこかで 太陽が輝いている 風が吹いている 水が流れている」というスライドを示したが、GEIが実現すれば昼夜の変動も季節変動も送電網が吸収調整することが可能になるだろう。
世界版のGEIに向けて、まずは東アジアにおける国際連携網の実現を期待したい。韓国のKEPCOは「スマート・エナジー・ベルト」、ロシアのロスセチは「エナジーリング」、日本の自然エネルギー財団は「アジア・スーパー・グリッド」と、まだ呼び名も統一されていないが、コンセプトは近似している。相互に前向きに取り組むことにより、いまの各国間に存在する政治的な対立を乗り越えて文字通り「連携するエネルギー」になるのではないか。

もちろん大規模な電力連携網には、その規模の大きさゆえのリスクもある。しかし、EUではすでに国際連携網が実現している。3.11を経験したわが国においては、自立(自律)分散型エネルギーとしての自然エネルギーの防災面あるいは安全安心面の機能整備を優先してほしいという国民の願いを重視することが必要である。その上で、グローバルな電力連携網が、国際紛争のリスク回避にもつながることを心から期待したい。

自然エネルギー財団ホームページリンク

記事: 久米谷 弘光