エネルギーは当たり前に供給されるもの、という意識を一変させた東日本大震災。節電やピーク電力の抑制など、企業も早急な対応を迫られたが、抜本的な解決策が図られている企業は少ない。震災とともに発生した福島第一原発事故によって、大規模集中発電という1つのエネルギーに依存する脆弱性が表面化した。長期的な再生可能エネルギーの推進とともに当面重視すべきは「エネルギーレジリエンス」だ。南海トラフ地震、首都直下型地震等が遠くない将来に発生することが予測されている。脆弱な我が国のエネルギー供給構造を強くしなやかで回復力あるものに変えていくことが大きな課題となっている。

 エネルギーの多様化と自立分散化による新たなベストミックスの構築が急がれる中、企業も主体的にエネルギー対策を検討することが重要である。震災ではBCP(事業継続計画)の有無はもちろん、それが機能したかどうかでシェアの逆転が起きた業界もあった。特にエネルギーのストップはビジネスの根幹に大きな影響を及ぼす。有事の対応が企業の信頼性を決すると肝に銘じ、平時から戦略的なエネルギー対策を講じる必要がある。

「国土強靭化基本計画」でもエネルギー対策は最重要課題

 昨年12月、「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」、いわゆる「国土強靭化基本法」が成立した。
 今年4月に原発の位置づけで揉めた「エネルギー基本計画」が閣議決定され、電気需要の平準化等を目的とした「改正省エネ法」が施行された。これらとともに、エネルギー政策に重要な意味をもつのが、6月に「国土強靭化基本法」に則って閣議決定された「国土強靭化基本計画」である。
 「国土強靭化基本計画」の策定・実行に深く関わっている東京工業大学・特任教授の金谷年展氏にお話をうかがった。

東京工業大学 ソリューション研究機構
特任教授 金谷年展氏のお話

image1 「国土強靭化基本計画」は、地震や土砂災害など、さまざまな国家的リスクに対応できるよう、強くてしなやかな日本をつくるための施策をまとめたものです。国土強靭化推進本部のトップは首相、全閣僚がメンバーで、全省庁が一丸となって推進する体制となっています。国策の最上位に位置する基本計画であり、国土強靭化に関しては、国の他の計画は本計画を基本とする、いわゆる「アンブレラ計画」です。
国土強靭化は、「ナショナルレジリエンス」と訳されていますが、「レジリエンス」は昨年のダボス会議(世界経済フォーラム)でも議題として取り上げられました。欧米では、自然災害に限らずテロ、パンデミックスなどを含めた国家的リスクに対するレジリエンスは常識であり、国際競争力の源泉となっています。日本は国際競争力がありつつも、レジリエンスの低い唯一の例外でした。しかし、3.11が契機となり、やっと日本もレジリエンスに取り組み始めたということです。
 防災とレジリエンスの違いは、防災は非常時への対応を準備しておくことなのに対し、レジリエンスは平時から体質改善を行うということです。レジリエンスや強靭化は、防災を含む概念ですが、いざという時に対症療法的に対応するのではなく、平時から根本的な体質改善を行うことで、有事の損失を最小限にとどめるのはもちろん、それにより経済成長や競争力の向上を図ります。
 例えば、まだ全国には1000万戸の非耐震の住宅が残っており、そこに2000万人が住んでいます。耐震化率が100%であれば、震災の時も90%被害を削減できると言われています。耐震化を平時からやっておけば、失わなくともよい命を救い、建物の資産価値も高くなるのです。
強靭化の1丁目1番地は建築物が残ること、その次にはエネルギーレジリエンスが重要です。基本計画の中で、エネルギーは13の施策分野のひとつですが、建物のレジリエンスが親亀、その上に乗るのがエネルギーレジリエンスと考えています。
 エネルギーレジリエンスの中核となるのが、エネルギーを自らつくり賄うことのできる自立分散型のエネルギーシステムの構築です。中でもコージェネレーションは電気をつくり、同時に出る排熱を活用するシステムであり、エネルギーを効率的に利用できます。
 国土強靭化は、「国土強靭化基本計画」「アクションプラン」「国土強靭化地域計画策定ガイドライン」の3点セットで推進されますが、それらの中にも「コージェネレーション」はキーワードとして何度も登場します。
 自立分散型エネルギーシステムの構築にあたり、環境、コスト、さらにレジリエンスという視点から考えるとガスの時代が来るでしょう。水素ガスを含めたガス体エネルギーの時代です。

レジリエンスステーションとレジリエンス調達

 金谷氏は、2016年の電力小売自由化の動きなどを踏まえ、電力業界やガス業界の垣根がなくなり、そうした中でガス体エネルギーの時代が来ると予測している。さらに、国土強靭化の観点から、レジリエンスステーションの設置や企業のレジリエンス調達の推進を提案している。続けて、金谷氏の話に耳を傾けよう。

 エネルギーの多様化でリスク分散するのはもちろんですが、安定供給が必要です。ガス供給を担うパイプの中でも高圧パイプや中圧パイプは地震に強い。東日本大震災でも中圧パイプが接続した天然ガスステーションは強かった。しかも天然ガスは石油などに比べ温室効果ガスの排出が少なく、シェールガス革命によって中長期的に価格低下が見込まれます。
 震災後の緊急輸送には、天然ガスステーションが無事だったので、CNG車(天然ガス自動車)が大活躍しました。私は、天然ガスステーションにコージェネレーションを設置して平常時から電力と熱を供給し、さらに地下水の膜ろ過装置で飲料水などを提供する「レジリエンスステーション」の整備を提案しています。一定のエリアごとに「レジリエンスステーション」を配置できれば、非常時には重要な防災拠点となります。
 企業のレジリエンスという観点からは、国土強靭化アクションプランの重要業績指標としてBCPの策定割合が示されています。2020年までに大企業ではほぼ100%、中堅企業で50%という目標値です。中小企業でのBCP普及には、補助金や認定による優遇策も必要でしょうし、大手企業や政府・自治体による「レジリエンス調達」が鍵になると思います。
 今年7月、産、学、官、民のオールジャパンでその叡智を結集してレジリエンス立国を構築しようと「レジリエンスジャパン推進協議会」が発足しました。そこでの会員の第一の要望はレジリエンス調達のガイドラインを早く作ってほしいというものでした。
最近は、環境分野の専門家もレジリエンスという言葉を使うようになりました。環境分野が新しいビジネスにつながったように、レジリエンスも新しいビジネスにつながる可能性は大いにあります。エコマークやエコポイントと同様に、レジリエンスマークやレジリエンスポイントができるかも知れません。

企業にメリット大
急速に導入が進むガス冷暖房

 金谷氏はエネルギーレジリエンスの観点からガスに注目したが、東京大学で環境・エネルギー分野の研究とコミュニケーション活動を担っている松本真由美氏もガスのコスト面、環境面の優位性を指摘している。

東京大学 教養学部付属教養教育高度化機構 環境エネルギー科学特別部門
客員准教授 松本真由美氏のお話

image003 原油価格は高騰を続けており、今後も高値が続くと予想されます。中東で何かがあるたびに私はどきどきしてしまいます。企業は、省エネはもちろん、省コストにも注目すべきです。ガスという選択肢を持つことは、有事に備えるだけでなく、平時にもコスト削減効果という大きなメリットをもたらします。
 例えば、ガス冷暖房を利用すれば、ピーク電力を抑制し、年間の電気料金を削減できます。月々の電気料金は「基本料金」と、電力の使用量から算出される「電力量料金」の合計で決まります。なかでも「基本料金」は、年間で最も電気を使用した際のピーク電力を基にするため、空調需要の多い夏の電力使用をガス冷房で抑えれば、毎月の基本料金、ひいては年間の電気料金を大幅に削減することができます。
 実際、ガス冷暖房は急速に導入が進んでいるようです。原発への依存度が高かったため、今夏、電力需要が逼迫した関西においては、ガス冷暖房がピーク時の電力の10%を賄ったというデータもあります。しかも、ガス冷暖房は高効率であり、ランニングコストの削減によって初期投資が3年から5年と早期に回収できるのも魅力です。
 今年4月に施行された改正省エネルギー法でも、ガス冷暖房は電気の需要の平準化に資すると導入が推奨されています。ピーク時に電力の削減に取り組んだ企業は、通常の1.3倍で割り増しに評価を行うという計算式も示されています。
 いまや節電は企業の社会的責任ですが、冷房の28度設定はあまりに非効率で非生産的だと思います。ガス冷房による快適な環境での作業は生産性、効率性の向上につながります。将来的にも省エネ基準は強化される見込みで、優れた設備によって省エネを実現する必要性は高いと思います。

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ガス冷暖房には、ナチュラルチラー(ガス吸収冷温水機)やガスヒーポン(GHP:写真)などがある。

 欧米では、省エネに取り組むビルや企業が評価される「グリーンビル」の制度があります。こうした制度が日本でも整備されるべきであり、企業はコスト意識を持ちながら省エネに取り組んで、先進的なモデルをつくってほしいと思います。
 IPCCの第5次報告が発表されてきていますが、もはや気候変動、温暖化の影響は疑う余地がありません。都市における大きな電力需要に対し、太陽光、風力は出力が安定しません。相対的に温室効果ガスの排出の少ない天然ガスはコンパクトで安定した出力で電力や熱供給ができます。環境アセスの対象ではないので都市部において大きな安定したエネルギーを提供できるメリットは大きいです。中央集中型としても自立分散型として活用でき、エネルギーのカスケード利用ができるというのもガスの長所です。
 大阪では、あべのハルカスや梅田スカイビル、京セラドームなどでガス冷暖房が導入されています。梅田スカイビルでは、すでに20年以上の稼働実績があり、設備を更新して効率向上を図りながら、オフィスやホテル、商業施設にエネルギーを供給しています。「マシーンZOO」というコンセプトで各設備を動物や恐竜にたとえて見学者に説明する試みも続けられており、子どもの環境・エネルギー教育にもとても効果的で、感心しました。

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ガス冷暖房が導入されている(左から)あべのハルカス、梅田スカイビル、京セラドーム

再生可能エネルギーとの親和性も高い天然ガス

 今回の金谷氏、松本氏への取材で明らかとなったのが、エネルギーレジリエンスにおける天然ガスの重要性である。金谷氏が提案するレジリエンスステーションは天然ガスステーションとコージェネレーション、CNG車の組み合わせで、平時における環境負荷の低いエネルギー供給拠点、緊急時の防災拠点として大きな役割が期待できる。松本氏が指摘するように、ガス冷暖房の電力需要のピークカット効果とコストカット効果、コージェネレーションの電力バックアップ効果は大きい。
 さらに天然ガスは、環境面において温室効果ガス排出量の相対的な低さとともに、再生可能エネルギーとの親和性の高さも評価できる。太陽光発電や太陽熱利用とガスを組み合わせた製品はすでに開発されており、将来的にはガスそのものが再生可能資源由来の水素やメタン等になる可能性もある。再生可能エネルギーの普及という観点からも家庭や事業所の水回り・熱まわりのサービスを提供するガス事業者の役割は極めて大きい。

 国土強靭化基本法や省エネ法などのエネルギー政策に則り、「エネルギー使用合理化補助金」などガス冷暖房やコージェネレーション導入への補助金や各種優遇策も講じられている。事業者はこうした補助金等を効果的に活用することで、ビジネスの強靭化を図っていくことができる。いざというときに勝ち抜くことのできる真に強い企業へ、平時における根本的な体質改善が求められている。

(取材・記事:ノルド社会環境研究所 久米谷 弘光)