山梨県北西部に位置する北杜市(ほくとし)の八ヶ岳南麓に日本初のゼロエネルギービルが誕生した。東京原宿にあった宗教法人生長の家・国際本部が2013年10月に移転開所した“森の中のオフィス”である。基本構想は野沢正光建築工房、設計監修が明豊ファシリティワークス株式会社、設計施工は清水建設株式会社。今年4月、施工者の清水建設が第23回地球環境大賞の国土交通大臣賞を受賞している。

生長の家 ご案内いただいた生長の家広報課の小関さん(左)と葛原さん

山梨県北杜市には3つの日本一がある。年間2,500時間以上の日照時間日本一。3つの「名水百選」とミネラルウォーター生産量日本一の名水の里。そして、日本の国蝶オオムラサキの生息日本一である。そんな太陽と水と緑に恵まれた北杜市大泉町の森の中に、生長の家“森の中のオフィス”が誕生した。目印としては、俳優の柳生博さんが開いたレストラン&ギャラリー「八ヶ岳倶楽部」がある。その道を挟んで向かい側の森の中。木造2階建ての建物としては高いが、高さは12.6mなので、まわりの木々に隠れて道路からは見えない。

森の中のオフィス 北杜市八ヶ岳南麓の豊かな緑に包まれた生長の家“森の中のオフィス”

周りの樹木の高さを超えない。これは、自然生態系との調和を考えた建築に欠かせない配慮だ。都市の環境配慮ビルなるものが、その高さを競っているのは、欺瞞的で醜悪だ。日本の樹木の高さは高木でもせいぜい30~40m。日本で環境配慮を標榜するなら、電波塔など特殊な機能をもつ建物や象徴的なランドマーク以外はその地域の高木以下の高さにすべきだ。そうすれば、生態系や景観への影響も少なくなり、風の道も確保され、ヒートアイランド現象も緩和されるはずである。
また“森の中のオフィス”は、敷地面積72,589㎡、延床面積8,154㎡に及ぶが、オフィスに農事倉庫やエネルギー棟を加えて9つの棟に分かれており、それぞれ日照や通風を考慮して一定の距離を保って配置されている。高さにおいても、配置においても周りの森に調和する配慮がなされている。

大型木造建築物として日本初の「FSC全体プロジェクト認証」取得
“森の中のオフィス”で最初に目を奪われたのは、外壁の美しさだ。山梨県産カラマツの下見張りの上にオスモカラーで塗装したものだという。オスモカラーというのは、再生可能な自然の植物油(ひまわり油、大豆油、アザミ油)と植物ワックス(カルナバワックス、カンデリラワックス)をベースにした自然塗装である。
そもそも、“森の中のオフィス”は、構造材をはじめ、下地材、仕上げ材まで90%以上山梨県産FSC認証木材を使用し、大型木造建築物として日本初の「FSC全体プロジェクト認証」を取得している。この認証は、建設・製造されるプロジェクト(建築物、土木構造物、イベントステージなど)に、環境に配慮して適切に管理された森林から切り出されたFSC認証材を50%以上使用することが必要とされている。“森の中のオフィス”では、これが90%以上ということで、文句なしの認証取得である。
フローリングやウッドデッキも山梨県産カラマツ、柱や梁といった構造材もカラマツの集成材を使用している。集成材を使うことで材木使用量は3分の1に削減でき、強度も建築基準法の1.25倍を確保できるという。耐火性に関しては、準耐火建築で、さらにスプリンクラー設備を設けて高い防火性能を確保している。
敷地の造成工事現場から大量に出た岩石も有効利用されている。擁壁や建物の基壇の仕上材に利用しているほか、床下の蓄熱砕石としても利用されている。

自然林の再生と生態系への配慮
“森の中のオフィス”は、カラマツとスギを主な用材とし、使われているのは丸太4万本、2,500㎥。いずれも環境に配慮した森林経営を⾏っている⼭梨県のFSC認証林から産出した⽊材を使用。伐採跡地にはカラマツの苗⽊を植林している。
また、造成区域内にある実生の幼⽊を1,000本以上集めて苗床で保存・育成し、造成終了後に植え替えを実施している。
さらに、敷地内の貴重動物種、貴重植物種の生息、生育環境を調査し、環境に影響が出ないような取り組みや貴重個体群維持のために必要な取組みを実施している。

イベントホール
400人収容のイベントホール。ステージ上の窓から見える森の光が美しい。

脱原発のためにエネルギー自給を目指す
生長の家は、2001年7月、宗教法人として日本初のISO14001の認証を取得。2003年には運動方針で“森の中のオフィス”構想を発表している。つまり、“森の中のオフィス”は10年越しのプロジェクトである。
約90カ所の候補地の現地調査の末、2010年1月に北杜市大泉町に建設用地を取得。最先端の環境技術を組み合わせてエネルギー収支ゼロ(CO2排出ゼロ)を目指す、基本設計を固めた。
しかし、翌年1月の地鎮祭の後に起こった3.11東日本大震災、福島第一原子力発電所の事故を受けて、大きな方針転換を行った。つまり、それまでの電力会社との売買電を前提としたエネルギー計画を見直し、電力自給をめざすシステム変更で、その後、400kWhの大容量リチウムイオン電池の導入を決定している。

原発による電力に依存しないエネルギー自給のためには、まず次のような「省エネルギー」設計がなされており、これで45%のエネルギー削減を図っている。

高断熱と太陽熱集熱システム
屋根と壁には300ミリの断熱材、窓には断熱性能の高いLow-Eペアガラスと木製サッシを採用して高断熱を実現。冬場は、屋根の太陽熱集熱システムで空気を暖めて、ダクトで床下に送り、床暖房に利用している。床下の蓄熱材としては、工事中に出て来た大量の岩石を砕いたものを利用している。
高断熱と太陽熱

自然通風による「森の冷房」
棟と棟の間隔を開け、高低差を利用して通風を確保し、庇で日射しを遮ることにより、夏場の冷房は不要になっている。特に、北側2階の窓を開けることで、南の下部の窓から森の涼しい風が吹き抜ける効果が大きいという。
森の冷房

自然光を最大限利用した照明システム
オフィスの採光については、自然光を最⼤限に利用。天窓や高窓、広い窓面からの採光で昼間はほとんど照明が不要に。照明についてはLED照明を全面的に採用し、適切な明度にセンサーで制御している。
窓  西側の広い窓からの採光で昼間は十分に明るい

中水利用とエコトイレ
水利用においても節水、エコトイレの設計配慮がなされている。便器を流れる水は生活用水や膜分離活性汚泥法浄化槽で浄化した中水を利用している。浄化槽の国の基準はBOD20mg/ℓ以下だが、膜処理方式を採用し、5mg/ℓまで浄化した上で排水(浸透)している。また、トイレの手洗い水栓が、「発電水栓」となっている。手洗い水栓は、センサー方式により手を差し出すとサッと水が出て、手を遠ざけると水が⽌まる。この自動水栓は、手洗い水の流れを利用して発電・蓄電した電⼒で作動するというスグレモノである。

高効率太陽光パネル(470kW)
一方、「創エネルギー」設計については、太陽光パネル、木質バイオマス、そして日本最大級の大容量リチウムイオン蓄電池を利用し、マイクログリッドシステムによって管理制御している。これらの創エネで55%のエネルギーを確保し、省エネ分45%と合わせてゼロエネルギーの実現を図っている。
太陽光パネルは、太陽熱集熱パネルとともに各棟の南向きの屋根に設置され合計470kW分設置されている。北杜市の日本一の日照時間と涼しい気候という地域特性から、太陽光発電パネルの発電効率も高くなる。
パネル 写真の屋根の左側が太陽光発電パネル、右側は太陽熱集熱パネル

木質バイオマス発電(175kW)と木質ペレットボイラ(50万kcal)
木質バイオマス発電は、製材所から出た端材などをチップ化した⽊質チップを原料とし、ガス化設備にてバイオガスを生成し、コージェネレーションにより、電気と熱を作る。
⽊材の組成は約50%が炭素、約6%が水素、そして残りの約44%が酸素。⽊材を⾼温で蒸し焼きにして熱分解させることにより、バイオガスを発生させ、ガスエンジン発電機により発電し、その際発生する熱を給湯や暖房に有効利用することにより、エネルギーロスを軽減する。また、7台のガスエンジン発電機を並列設置することにより、負荷電⼒の変動に対して最適台数での運転を実現している。
⽊質バイオマス発電から電力と同時に取り出された熱は、給湯のほか、冬季の暖房や敷地内のロードヒーティングに使われる。熱が足りない場合は併設された木質ペレットボイラを稼働させてコントロールする。それぞれ燃料には、地元産の間伐材チップとペレットを利用している。また、木質チップが入手できない非常時には、バイオディーゼル燃料100%でバイオマス発電を動かせるなど、緊急時に備えている。
バイオマス

大容量リチウムイオン蓄電池(400kWh)
商業ベースでは日本最⼤級の⼤容量リチウムイオン蓄電池。バイオマス発電設備・太陽光発電設備の発電とリチウムイオン蓄電池の充放電をマイクログリッドシステムで制御することにより電力自給を目指している。太陽光発電設備とバイオマス発電設備で発電した余剰電⼒をリチウムイオン蓄電池に充電、夜間や曇天時に照明や暖房等へ供給する。
このリチウムイオン蓄電池容量400kWhは、導入決定当時は日本最大で、ハイブリット車プリウスの蓄電池93台分にもあたるという。
職員の通勤や移動にも電気バスや電気自動車が使用され、CO2排出の抑制が図られている。

リチウムイオン電池 大容量リチウムイオン蓄電池が格納されているエネルギー棟

完全自給まではもう一息
こうした地元の自然の恵みと最先端技術を活かした省エネ・創エネの取り組みによって年間のゼロエネルギーは確実に達成できる見込み。しかし、電力会社に頼らないエネルギー完全自給については、蓄電池の容量がわずかに足りず、明け方の数時間は買電せざるを得ないという。完全自給のためには、夜間の照明やサーバー等の節電、バイオマス発電の安全な夜間自動運転、蓄電池容量の増加、マイクログリッドシステムのより効率的な制御など課題はある。
ただし、2016年には電力小売りの完全自由化も実現する見通しがあり、系統電力を頑なに拒む必要もないだろう。北杜市であれば太陽光発電や小水力発電などによる電力供給を近くの新電力から受けられる可能性は高い。

これだけの自然生態系調和型のゼロエネルギービルが実現できたのは、生長の家の教義によるところも大きいと思われる。駐車場から“森の中のオフィス”に通じる道には「有情非情悉皆調和橋」とある。心のあるものもないものも皆調和しているという自然生態系の調和に通じる教えだ。オフィス棟からエネルギー棟に通じる道には「万教同根世界平和橋」とある。すべての宗教の根本は同じで世界平和をめざしているという意味の教えだろう。
“森の中のオフィス”という新しいモデルが、自然生態系と調和した平和な未来への橋渡しになることを祈りたい。

有情非情悉皆調和橋 “森の中のオフィス”に通じる有情非情悉皆調和橋

(取材・記事:久米谷 弘光)